概要
① スリランカ旅行中に犬に右腕を噛まれる
② 狂犬病を疑い現地の病院へ行くが異常なしとの診断
③ 日本へ帰国後、検疫相談室へ行き念のため病院で狂犬病ワクチンを接種する段取りを組んでもらう
④ 病院で計6回の狂犬病ワクチンを接種する
海外旅行中に犬に腕を噛まれる
2019年に6日間でスリランカを一人旅していたときに犬に腕を噛まれてしまいました。
スリランカで1番有名な世界遺産のシギリヤロックがあるシギリヤのロッジに滞在していた時のことでした。
そのロッジはとても敷地が広く、宿泊場所の裏には広大な自然が広がっている裏庭のような場所がありました。そこは宿泊者であれば自由に行き来ができて、そこで夕陽や朝日を見るのは宿泊者に人気のイベントでした。
私も早起きしてその裏庭でカメラを持って朝日の写真を撮影していました。
しばらく撮影をしていると遠くに一匹の犬が歩いてこちらに向かってくるのが見えました。実はこの犬はロッジで飼われている犬でよく躾がされており、私もチェックイン時に会っていたので何の心配もしていませんでした。
ところがその犬がこちらに近づいてくるたびに段々と早足になり終いには全速力でこちらに向かって走ってきたのです。そして私の元へ来るなり私の右腕をいきなり噛んだのでした。
頭によぎる狂犬病の三文字
一瞬の出来事だったので何がなんだか分かりませんでした。その犬は私の右腕を噛んだ後は落ち着いたのかその場に伏せてずっと大人しくしており、その後は襲ってくることはありませんでした。
噛まれて数秒して右腕に激痛が走ります。急いで腕を見ましたが、早朝で冷え込んでいて長袖を着ていたおかげか幸い傷は全くなく血も出ていませんでした。ただ、噛まれてずっとズキズキと右腕が痛みます。
そして私は「やってしまった…」と血の気が引いていきました。頭に狂犬病が浮かんでいたからです。
致死率100%の狂犬病ウイルス
狂犬病は狂犬病ウイルスを保有する犬や猫、コウモリなどの動物に噛まれたり引っ掻かれたりしてできた傷口からウイルスが侵入し発症すれば現在の医療では治すことができずほぼ100%死んでしまうとても恐ろしい感染症です。唯一の対策は発症させないようにするということだけです。
元々、動物が苦手ということもあり自分から近づくことはないものの、特に海外では野犬も多く近づかないように細心の注意を払っていたのでとても焦りました。
噛まれた後、急いでロッジに戻り噛まれた部位を石鹸と水で綺麗に洗い流しました。これは動物に噛まれた際にまず最初に行うことです。
気づけばもう完全に日が登っていている時間になっていましたが、ロッジのご主人の元へいき今朝起きたことを話しました。とにかく私が聞きたかったことは「飼っている犬に狂犬病のワクチン接種を行なっているかどうか」ということです。犬が狂犬病ウイルスに感染していなければ、当然噛まれてしまっても感染することはありません。
ご主人は「まさか家の犬が噛むとは…」ととても驚いた様子でしたが、謝罪とともに犬はすでにワクチンを接種しているから問題ないと言いました。何も証明書などはなく信憑性は無いのですが…。ただ、この日はチェックアウトの日で、キャンディという次の街へチャーターしていたツーリストタクシーで向かう予定です。
この時点で直ぐに病院へ行くことも考えていました。仮に狂犬病ウイルスを持つ動物に噛まれてしまった場合24時間以内にワクチンを接種しなければならないからです。ただ、もう30分後にはロッジに迎えのタクシーが来るし、腕は痛むが傷は無い、噛んだ犬が狂犬病のワクチンを打っているという言葉を信じ、とりあえずキャンディへ向かいそこの病院で診察してもらうことにしました。
世界遺産の街キャンディへ移動
ロッジへ手配していたキャンディへ向かうタクシーが到着しました。運転手は陽気な人で調子はどうだい?と明るくテンションが高かったのですが、その反面私は少し気が落ち込んでいたので今朝起きたことを話しました。すると、念の為か運転手がロッジのご主人に犬にワクチンを接種しているのか再確認をしてくれました。そこでも問題なく犬はワクチンを接種しているとのことでした。
私を見かねたのか別れ際にロッジのご主人がもし何かあったら連絡してくれと名刺を渡してくれ、次の街キャンディへ向けて出発しました。
キャンディは仏教の聖地でありシンハラ人最後の王朝でもあるため、その歴史的な重要性から街全体が世界文化遺産にも登録されています。中でもブッダの歯が収められている仏歯寺は有名です。
宿泊していたシギリヤからキャンディへは車で3時間くらいで到着しました。移動中も運転手は「元気出せ!」と私を励ましてくれていましたが、ズキズキと痛む腕ともし狂犬病だったらという恐怖で憂鬱な気持ちになっていました。タクシーで仏歯寺などのいくつかの有名な観光地を巡り、キャンディの予約していたホテルへ到着後「じゃあ明日の朝また迎え来るからね!」と言葉を交わし、今日の分のチップを渡して運転手と別れました。
ホテルへチェックインしたのは午後2時くらいで、本来であれば街中をぶらぶらしながら現地の料理を食べたり街中の様子を写真撮影するつもりでしたが、とても観光する気は起きずひたすら現地の病院をgoogleで探していました。
保険会社へ連絡し現地の病院へ
今回の旅ではジェイアイ傷害火災保険の「t@biho(たびほ)」に加入していたので、とりあえず連絡をして出来事を説明した後対応を仰ぎました。返ってきた答えは、現在いるスリランカのキャンディではジェイアイと提携している病院はないのでこちらから病院を紹介することはできないので自力で病院を探して診察を受けてください、診察を受けた際には必ず領収書を貰ったり診断書を貰ってくださいとのことでした。
そこで、googleで探して大きめの病院がホテルから徒歩数十分のところにあることが判明し急いで向かうことにしました。途中、多くのタクシーの客引きや物売りをやり過ごしながら無事病院へ辿り着きました。
病院の職員らしき人に声をかけ、犬に噛まれたと言って案内してもらっていたら狂犬病担当の医者(?)がちょうど帰宅するところで、診察室でのちゃんとした診察というよりは帰り際での立ち話みたいな感じで今朝起きたことや自分の今の症状を伝えました。
結論として、傷や出血が無く、噛んだ犬も野犬でなく飼い犬でワクチン接種を受けている(多分)ので問題ないとのこと。
心配ならまだ噛まれてから24時間以内だからワクチンを打つことができるけど、ワクチンを打つ場合、経過観察のため1〜2週間はスリランカに滞在する必要がある、狂犬病の疑いがあるとされる噛んだ犬を連れてきて隔離しなければならない(もし犬が狂犬病に感染していたら数日以内に亡くなる)と言われました。
2日後には帰国予定で3日後には仕事に行かなければなりません。1〜2週間追加で滞在するのは事実上不可能でした。私は医師にワクチンを打つことはしないと返答しました。最後に診察料はいくら?と聞きましたが、「いらないよ、お大事に」と言われ彼は帰って行きました。
帰国を早めるか、観光を続行するか
病院からホテルへ帰ってきて悩みました。医師に問題ないと言われたが、万が一のこともあるため明日予定を早めて帰国するか、それとも予定通り観光を続行して2日後に帰国するか。
数時間、色々ネットで狂犬病について調べて、予定通り観光を続行して2日後に帰国することにしました。下記の理由で狂犬病にはなっていないと判断しました(自分に言い聞かせました)。
①病院に行き医師の診断(?)で問題ないと言われた
②噛んだ犬が野犬でなく飼い犬で飼い主曰くワクチンは接種済み
③実際噛まれた部位は痛むが傷はない
どこか心の中で不安を感じながらも予定度通り他の街に行ったりもして最後までスリランカ旅行を楽しんで帰国の途につきました。なお、帰国後もしばらく腕のズキズキした痛みは続いていました。
狂犬病の不安が拭えず検疫健康相談室へ
無事定刻通り成田国際空港に到着しました。ただ、やはり狂犬病に感染しているのではないかという不安は残っていました。何故そこまで心配しているかというと発症してしまったら本当に最後だからです。
そこで、私は検疫の「成田空港検疫健康相談室」に行きました。
あまり知られていないのですが、検疫には健康相談室という場所があります。ここでは海外から帰国して健康状態に何らかの不安や心配がある場合訪れることができます。中では検疫官が相談に乗ってくれます。勿論、料金は無料です。
場所については、検疫のブースにあります。帰国後、飛行機から降りると検疫→入国審査→税関の順で進んでいきます。入国審査はパスポートチェックがあったり、税関では荷物検査があったりしてよく知られていますが、検疫は特に審査などは行われないのであまり知られていません。
飛行機から降りて入国審査へ向かう途中にサーモグラフィーの前を通る経験があるかと思いますがこれが検疫です。ほとんどの人はそのままスルーして入国審査へ向かいますが、ここに前述の検疫健康相談室があります。なお、国際便が到着する空港には税関・入管・検疫は必ずあるので、成田空港以外にも検疫の健康相談室はあります。
検疫健康相談室の扉を開けると「どうされましたか〜?」と物凄く心配した声で検疫官の方が駆け寄ってきてくれました。
狂犬病ワクチンを接種することに
私は数日前に起きたことを検疫官の方に話しました。ロッジのご主人、運転手、保険会社のオペレーター、医師に続き説明するのは5人目なのでスラスラと当時の状況を説明しました。
話し合いの結果、すでに犬に噛まれてから数日が経っていましたが、念のため今からでも打った方が良いのでは?ということになりました。
狂犬病のワクチンには暴露前接種と暴露後接種があります。暴露前接種はいわゆる予防接種で事前に3回の接種を行います(多い…)。暴露後接種は日本では、噛まれた日を0日目として、0日、3日、7日、14日、28日、90日の計6回の接種を行います(多い…)。世界標準では90日目が無く計5回目だったりします。
本来であれば、噛まれた日(0日目)にワクチンを接種しなければならないのですが、帰国した日を0日目として計6回の接種を行うこととしました。
ワクチンを打つと決まって、次に検疫官の方が成田空港のクリニックに狂犬病のワクチンの在庫があるか電話で問い合わせてくれて今から一人ワクチンの接種を行いに行くと伝えて病院側と調整をしてくれました。狂犬病のワクチンは病院にも常時あるわけではなく事前の確認が必要で、病院によっては急に行っても対応してくれないこともあるみたいなので検疫から病院へ連絡を入れたほうが確実だと言っていました。
成田空港のクリニックでワクチンを接種することが決まったので検疫官の方にお礼を言って入国審査へ向かいました。
なお、帰国後に犬に噛まれたと相談に来る人は多く、噛まれて24時間以上経過してワクチン接種する人も結構いるからそこまで心配する必要はないよと言われ、その言葉で初めて少し安心しました。
とても優しく寄り添って相談に乗ってくれた検疫官の方には本当に感謝しています。ありがとうございます!
成田空港のクリニックで狂犬病ワクチンを接種
入国審査を受けてスーツケースをピックアップし税関を抜けて無事入国できました。同じ飛行機に乗っていた他の乗客は私が健康相談室にいる間に入国していたので、ベルトコンベアには乗っていたのは私のスーツケースだけでした。
今回、スリランカへは東京(成田)とスリランカの首都コロンボを直行便で飛ばしているスリランカ航空で行きました。スリランカ航空はJALと同じワンワールドアライアンスメンバーでこの成田=コロンボ線においてコードシェア(共同運行)を行っており、成田空港の第2ターミナルを利用しています。入国後、第2ターミナルの空港クリニックへ向かいました。第2ターミナルの空港クリニックは地下1階にあります。
事前に検疫官の方から詳細など連絡を入れてもらっていたおかげでスムーズにワクチンを接種することができました。この後、残り5回のワクチンをここで接種することになります。
接種場所について、最初は空港のクリニックで接種することになりますが、その後は自宅の最寄りの病院で接種することができます。ただ、狂犬病のワクチンを接種できる病院は限られており、健康相談室でワクチンを接種できる病院の一覧を見せてもらったところ当時私が住んでいた場所からは成田空港のクリニックが1番近かったので、ここで引き続き残り5回の接種を受けることにしました。都内だと接種できる病院は結構多かったと記憶しています。
ワクチン費用と病院往復交通費は海外保険適応
帰国後、加入していたジェイアイ傷害火災保険の「t@biho(たびほ)」に再度連絡しました。現地では費用が発生する診察は無かったが帰国後にワクチンを6回接種する旨を伝えると、保険適用の対象だったので計6回のワクチン費用と初回を除く残り5回の接種に係る自宅から空港クリニックまでの電車の往復運賃を全て負担してもらえました。
一旦、全ての費用を自分で負担して6回のワクチン接種完了後、6回分の領収書と必要書類を保険会社に郵送して指定口座に振り込んでもらいました。ワクチン接種費用はそこそこの額だったので海外保険に加入しておいてよかったと感じた瞬間でした。
なお、本件が本当に海外旅行中に発生したものか確認(海外旅行前の怪我を保険で治そうとしてないよねという確認)されるのですが、私は海外滞在中に保険会社に電話をして概要を説明していたのでその点は問題ありませんでした。海外旅行中に事件や事故が発生した場合は保険会社にも一報を入れておくのは大切です。
まとめ
狂犬病の一般的な潜伏期間は1ヶ月から3ヶ月で長い場合は1年から2年の場合もあるようです。結局、私は感染していませんでした。本当に良かったです。
狂犬病の清浄国は日本、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムなどの限られた地域のみで、ほとんどの国や地域には狂犬病が発生しており毎年世界中の多くの方が狂犬病で亡くなられています。海外旅行で犬を初め、動物に触れるのは注意が必要ですね。